仏教語から出た日常語・ことわざ(32)       シリーズ(215)

非道い(ひどい)と皮肉

 「ひどい」を辞書で引くと「酷い」と出ています。これは非道を形容詞化したもので、むごい・残酷である・苛酷であるという意味があります。日本では古来より武道・華道・茶道・香道など、その極める過程を「道」として大切にしてきました。仏教においてもその通りで、さまざまな煩悩を滅し去り、悟りの境地に至る修行の過程を「仏道」といいます。その仏道にはずれることを非道といいました。それがやがて、むごい・残酷である・甚だしい(出来栄えが悪い)と解釈されるようになり、非道い=酷いになったとされています。

 皮肉というのは、まさしく皮と肉のことで、骨髄に対する言葉です。骨髄が要点や主眼・真髄という意味で用いられているのに対して、皮肉は皮相と同じ意味で、骨や髄にまで達しない所ということで、うわべ・理解の浅い所という意味になり、物事の真相を見きわめずに下す浅はかな判断のことをいいます。つまり、「皮肉」は仏教の根本の意味を理解しないことをいうのです。このように、枝葉末節のみを論ずるところから、遠回しに意地の悪い非難をすること(例=皮肉たっぷりの挨拶)を皮肉を言うと表現するようになり、物事が予想や期待に相違した結果になること(例=皮肉な運命)という意味、また、骨身にこたえるような鋭い非難という意味でも使われるようになりました。

 近頃の世相・政治は本当に非道いと、皮肉を言いたくなります。

   参考文献 「広辞苑」   岩波書店

     「大法輪第72巻、第2号」 

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