仏教語から出た日常語・ことわざ(29)       シリーズ(211)

二枚舌(にまいじた)

 「二枚舌」とは、違う相手にそれぞれ迎合して、先に言ったことと矛盾したことを次の相手に言うことです。簡単に言えばそれぞれに嘘をつくことになります。

 この二枚舌とは、十悪業のうちの「両舌りょうぜつ」のことです。十悪業とは、身(しん)・口()・意()=三業(さんごう)という、の三つの分野のはたらきから起こる十種の悪業のことです。それは、身の分野から起こる殺生(せっしょう)・偸盗(ちゅうとう)・邪婬(じゃいん)、口の分野から起こる妄語(もうご)・綺語(きご)・悪口(あっく)・両舌(りょうぜつ)、意の分野から起こる貪欲(とんよく)・瞋恚(しんに)・愚痴(ぐち)または邪見(じゃけん)の十種です。十悪業は人間としてしてはならないことなのです。

 十悪業に似たものとして「十戒じっかい」があります。これは出家した男女でまだ具足戒を受けていない人達が守るべき戒めです。それは「不殺生戒=生き物を殺さない」・「不偸盗戒=盗みをしない」・「不邪婬戒=妻・夫以外の人とみだらなことをしない」・「不妄語戒=嘘を言わない」・「不飲酒戒=酒を飲まない」・「不塗飾香鬘戒ふずじきこうまんかい=飾りや香を身につけない」・「不歌舞観聴戒=歌や舞を見たり聞いたりしない」・「不坐高広大床戒ふざこうこうだいしょうかい=高く広い寝台に寝ない」・「不非時食戒ふひじじきかい=午後に食事をしない」・「不蓄金銀宝戒=ふちくこんごんほうかい=金銀財宝を蓄えない」の十条です。

昨年一年を表す字が「偽」であったように今の世の中「嘘」が多すぎます。十悪業をなさぬように十の戒めを念頭において身を修めてまいりたいものです。