仏教語から出た日常語・ことわざ(28)       シリーズ(210)

猫も杓子(しゃくし)も と 師走(しわす)

 「猫も杓子も」とは、何もかも・誰でも皆、という意味です。

 この言葉は、猫の手としゃくしの形が似ているところから来たという説もあるようですが、もともとは、猫は「禰子ねこ」で、杓子は「釈子しゃくし」と書いたようです。禰子の禰は、禰宜(ねぎ=宮司につぐ神官で、宮司の命を受け祭祀に奉仕する)という言葉があるように神に関係した言葉で、その後に子をつけて、禰子は神主さんのお弟子さんという

意味があるようです。また、釈子の釈は、お釈迦様の意味で、その後に子をつけ、釈子とはお釈迦様の弟子さんという意味のようです。「禰子も釈子も」となりますと、神主さんのお弟子さんもお釈迦様のお弟子さんも同じであるということになり、何もかも・誰でも皆という意味になったようです。神仏混合の日本ならではの慣用表現のようです。

 「師走」は陰暦の十二月のことですが、今では太陽暦の十二月にも使われています。いろいろな説がありますが、年末はお坊さんも忙しく走り回る「師馳ス・しはす」からという説が有力です。平安時代に貴族たちが年の瀬に、仏名会(ぶつみょうえ)という、過去・現在・未来の三世の諸仏の仏名を唱えて、一年間の罪障を懺悔して消してもらう法会(ほうえ)に、お坊さんをあちこちで呼んだために、都を忙しく走り回るお坊さんの姿がよく見られたというところから「師走」という言葉が生まれたそうです。

 師走も半分が過ぎて、これからは「猫も杓子も」ますます忙しくなることでしょう。風邪などひかぬようご自愛のうえ、良いお正月をお迎え下さい。

参考文献 「大法輪第722号」大法輪閣

     「禅の友」平成1912月号         ご感想をお聞かせください。薄謝進呈