仏教語から出た日常語・ことわざ(25)       シリーズ(204)

奈落(ならく)の底・奈落の苦しみ

「奈落」はサンスクリット語narakaを音写したもので那落迦(ならか)、那落とも書き、

その意は「地獄じごく」をさします。そのことにより奈落とは、ものごとのどん底、もうこれ以上堕ちる所がない最低の場所、浮かぶ瀬のないところという意味になります。現在ではその意味が転じて、劇場で花道の下や舞台の床下の地下室のことをさし、回り舞台やせり出しの装置があります。

 「奈落の底」とは、ア)地獄の底。イ)深くて底の知れない所。ウ)永久に浮かぶ瀬の無いところ。エ)物事の最終、最後、はてのはて。という意味になります。

 ところで、「地獄」とは、地下にある牢獄のことで、出口の無い苦しみの世界を意味します。仏教では正しい教え・仏法をそしったり、悪業・悪事を行ったりすると地獄に落ちるという考え方がありました。昔の人たちの眼前にはハッキリと地獄があったのです。それによって人々には悪いことをしてはいけないという罪意識が育まれました。

 昔は地獄絵図を子供に見せて、悪いことをすればこんな恐ろしい所に落とされてしまうから、悪いことをしてはならないのだよとさとし、悪いことをすれば罪になると教えたものでした。昨今ではこのような情景はあまり見られなくなったようです。あまりに悲惨な事件の起きる今だからこそ、悪いことをすれば地獄に落とされる、だから悪いことをしてはならないのだという罪意識を育むことも必要なことと思われます。誰も見ていないからと悪いことをする人もいます。でも、自分の中のもう一人の自分が、自分を見ているのです。自分に恥ずかしくない行いをしたいものです。

参考文献  「大法輪第72巻」 大法輪閣

      「広辞苑」     岩波書店

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